薄皮がはがれるように

五日一風十日一雨
ゴジツイツプウジフジツイチウ

五日に一度、風が吹き、十日に一度、雨が降る。
禅の言葉です。
天候が良好で、太平な毎日のことを言います。

三寒四温

なんて言葉もありますね。

まさに病気からの回復は、そんなゆったりゆったりとした時間でした。
O先生は、病気からの回復を、

長い滑走路を離陸に向けて助走する

なんて言ってましたね。
僕も写経したら、すぐに治った、なんて奇跡のような話ではなく、
じんわりじんわり治っていったのです。
そう、

薄皮が一枚一枚はがれていくかのように。

いま、心の病を背負っている方に、言いたいです。
すぐによくなろうなんて、思うとつらくなります。
ゆっくりゆっくり。

すると、気が付くと、ご飯を2杯おかわりしていた、とか、
ショーウインドウで見たシャツを衝動買いした、なんて、
いつもよりちょっとだけ前向きになれていた自分に気づく時がきます。

あと、クスリはちゃんと、のんでくださいね。

あと、いちばん、大事なこと。
失うことを嘆かないでください。
これは病のある方以外の方にも言いたいです。

般若心経にこんな言葉があります。

「心無罣礙」(しんむけいげ)

心にとらわれのないことを言います。

「心無罣礙 無罣礙故 無有恐怖」
(しんむけいげ むけいげこ むうくふ)

心にわだかまりがないから、おびえることもない。

不安やおびえは、何かをキープしようとするから生まれるのです。
すべてを手放すと、もう手放せるものがないから、
気持ちが軽々となるのです。

恋人を失う
家族を失う
仕事を失う
自信を失う

その事自体は悲しいです。
失うことで人は落胆するでしょう。

でも、それで人生、チャラ。
ふりだしに戻りまた。

生まれ変わるのです。

僕はお金がなかったある台風の夜、
傘を買うのが惜しくて、びしょびしょになりながら、
家路についたことがありました。

そのとき、久々に笑ました。
傘も買えない自分が風雨の中で、笑ったのです。
毎日、死んだように青白い顔をしていた自分が、
その夜はなにか爽快で。涙を流しながら笑いました。

これぞ、ザ・心無罣礙。

笑った自分は、もしかしたら、峠を超えたのではないか、と、感じたのです。

それは気づかないうちの半歩前進でした。