転職戦線、異常あり

履歴書には、健康状態を記載する項目があります。

ふつうみんな「良好」と書くのが、一般的です。
しかし、そこに僕はいつも、

絶好調

と書いていました。
当時、「絶好調男」ともてはやされていた、元巨人軍・中畑清のキャッチコピーです。
もうこの時点でおかしいでしょ。

そう僕はすでにおかしかったのです。
まあ、100社は受けましたね。
大手出版社、新聞社、テレビ局、ラジオ局。
意外でしょうが、けっこういい線まで行くのです。
僕が異常に元気なので、こいつはなかなかオモシロいと思われたのでしょうか。
でも役員面接に行くくらいには、ボロが出て、不採用となるのです。

御社に革命を起こしたい

などとたわけたことを社長の前で述べたこともありました。
もう本当におかしかったのです。
会社にはろくに行かずに、面接ばかり行っていました。
面接も80社を超えたあたあたり、もう僕は疲弊しつつ、かなりハイになっていました。
とある出版社の初老の編集長に会ったときのことです。
その人は僕の自己紹介を聞いた後、履歴書を見て、「うーん」と唸りました。
そして、こう言ったのです。

「履歴書はもう汚さないほうがいいです」

汚さないとは、転職を重ねないほうが身のためだと言うことです。
そのとき、僕は30歳で転職を2回していました。
くそじじい、わかったような口を聞きやがって。
と思いましたが、その老獪な表情からの進言になにかズサっとくるものがありました。
お見通しだったのですしょう、すべて。
その日は肩を落として、帰宅しましたが、しかし、翌日もその翌日も僕は絶好調と書いた履歴書の束を持って、面接に奔走したのでした。
そして、のちに、現在の主治医から引導を渡されることになったのです。